【名古屋 vs 福岡】 ウォーミングアップコラム(名古屋):田口泰士に宿る名古屋の“魂”。昇格を決める男は最後まで身体を張る。

2017年12月2日(土)



2017年の最終戦、そして1年でのJ1復帰をかけた大一番へ向け、最も気持ちが入っている選手は誰かと言えば、田口泰士(写真)をおいて他にはない。現在の主力の中で数少ない昨季のJ2降格経験者は「確かにそういうところはある」と短い言葉で昇格プレーオフへの意気込みを語る。千葉との準決勝では試合の流れを変える殊勲のゴールを決め、今季はリーグ戦9得点とアタッカーとしての才能も発揮してきたシーズンだった。もちろん本来の持ち味であるゲームメイカーとしての能力は風間八宏監督をして「かなりの部分を委ねている」と折り紙付き。序盤戦こそ負傷で出遅れたが、今や彼の存在は文字通りチームの心臓部として欠かせないものとなった。

ボランチとしての基本能力の高さと正確かつ強力なパス、そしてJ2で身につけた決定力。現在の田口という選手のイメージはどちらかといえば華々しいものが多いが、一方で今季の彼のプレーは泥臭く、傷だらけの印象もまた強い。風間監督が持ち込んだ新たなサッカースタイルへの順応には時間がかかった方の選手であり、プレシーズンキャンプでもかなり苦労した一人だ。沖縄での広州恒大との練習試合では前半限りで交代を命じられ、翌日の東京Vとの練習試合で“追試”を受けた。そこで見事なミドルシュートを叩き込んだ直後にパスカットしようとした足先に変な角度でボールが当たり、左ひざを負傷。同箇所は昨季にも骨挫傷や靭帯損傷を負った古傷で、戦列復帰後も「強くボールを蹴ると膝が抜けるんですよ」という足かせにもなっていた。6月3日のホーム金沢戦では相手との衝突で左まぶたに今も傷が残るほどの裂傷を負い、その後も左手指にテーピングが欠かせない時期も長く続き、見ていて痛々しいほどでもあった。

見た目だけではなく、プレーでも身体を張り続けたシーズンだった。組織として決められた連係や連動性を持たない今季のチームはボール奪取の基本は個人戦術にあり、個々の判断の総力として守備をしている傾向が強かった。必然的に最終ラインとボランチの守備の負担は増え、ショートパスを主体とした攻撃は一つのパスミス、パスカットがカウンターの呼び水ともなり、守備への切り替えで選手が無理をする回数も当然のごとく増えた。そうした場面で最も必要な素養とは何かといえば、責任感である。目の前にあるピンチの芽を刈り取ろうとする強い意志をどれだけ強く持つことができるか。田口はその点で、小林裕紀と並んでチーム内でも図抜けた存在だった。今季、レフリーから提示されたイエローカードの数は計10枚で、出場停止は2回。その中にはもちろん自分のミスを挽回しようとしたラフプレーも含まれているが、警告にならなかったファウルを含めてピンチを潰すためのファウルがどれだけあったことか。「今年はイエローカード多すぎなんですよね…」とボヤいたこともあったが、それがチームを救うプロフェッショナル・ファウルであったことを見逃してはいけない。

とにかく“痛い”シーズンも、彼はポジティブに前進を続けてきた。痛む左ひざは時に彼を助けもし、8月6日のホーム愛媛戦では自身初のハットトリックをその左足で決めてもいる。相手のタイミングとブロックを絶妙にかわすコントロールシュートはまさに「強く蹴ると抜けちゃうから」と抑え気味に打ったのが奏功した結果だった。プレーオフ準決勝でのゴールも左足だ。「右足で打とうと思ったけど、冷静に状況は見えていたので。コースも見えた」と、左足のコントロールシュートを選択し、GKとDFの逆を取った。まるで彼の魂そのものが、左足に宿っているかのようなここまでの戦いぶりだった。このゴールへの過程には賛否両論あるが、選手は笛が鳴るまでプレーを続けるだけである。彼はピッチで勝利だけを見つめてプレーした。その結果が名古屋をプレーオフ決勝にまで導いた。その想いの強さにはただただ感服するばかりである。

そして今、決戦を前に田口は言う。「泥臭くてもいいから勝ちに行く。結果を出さないと終わってしまう」と。プレーオフに入ってチームはなりふり構わずに勝利を目指す姿勢を打ち出し始めた。その中心にいるのはもちろん、名古屋の“魂”たる背番号7である。辛く苦しい昇格への道を最後に切り拓くのはその右足か、はたまた左足か。

文:今井雄一朗(名古屋担当)


J1昇格プレーオフ 決勝
12月3日(日)16:00KO 豊田ス
名古屋グランパス vs アビスパ福岡

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